「ルパン三世」の作者の漫画家モンキーパンチ(本名:加藤一彦)先生が2019年4月11日に81歳でなくられました。
2019年4月で81歳という一般的な見方だと、デジタル機器とは無縁そうな年齢です。
しかし、モンキーパンチ先生は数十年も前から、液タブなどのデジタル機器を使って漫画を描いていたそうです。
今回は、モンキーパンチ先生が
- いつからデジタルを導入したの?
- どのようなデジタル機器を使っておられたか
- デジタルで描くメリットは?
など調べてまとめました。
モンキーパンチ先生がデジタルに目覚めたきっかけは?
最先端のデジタルに興味があったモンキーパンチ先生
1975年(38歳のとき)にアメリカで開発されたばかりのパソコンに出会われて購入をされてたそうです。
購入されたのはおそらく、1974年12月発売の「世界初のパーソナルコンピューター」と呼ばれている『Altair 8800(アルテアはちまるはちまる)』だと推測します。
現代のパソコンを使っている人であれば、『Altair 8800』買ってモンキーパンチさんは何をしたかったんや?と思うかもしれません。
おそらく最新技術にもお金を投資できるほど、モンキーパンチさんは好奇心旺盛だったのだと思います。
Appleのマッキントッシュでさらに火が付く
1984年にアップルの『Macintosh(マッキントッシュ)』が発売されました。
『Macintosh(マッキントッシュ)』はグラフィックやイラストレーションなどのデザインの分野でも使われた人気のコンピューターです。
ここでさらに、モンキーパンチさんのコンピューターに対する興味は一気に大きくなることに。
SHARP MZ-700のCMにも出演していた
1982年11月に発売されたSHARPの『MZ-700』というパソコンのCMにも、モンキーパンチ先生は出演されていました。
(CM中のモンキーパンチ先生のパソコンは1985年発売の『MZ-2000』だそうです。)
まだ、このころはパソコンを使って漫画の原稿をつくっていたわけではないようです。
ただCMに出演するほどですから、モンキーパンチ先生はパソコンなどのデジタル機器を使っている人物としては知られていたということですよね!
いつからモンキーパンチ先生がデジタルで漫画を描き始めたの?
1988年(51歳のとき)から漫画を描くのにコンピューターを導入されたそうです。
『Macintosh(マッキントッシュ)』の登場により、レーザープリンターやPostScript(アドビシステムズという会社のプログラミング言語)といった環境が整いました。
そして、モンキーパンチ先生はデジタルで漫画を描き始めたそうです。
ただ、パソコンを使った漫画制作には、編集部からの批判があったようです。
今となってはデジタルで漫画を描くことは当たり前になっていますから、モンキーパンチ先生はまさにデジタル漫画制作の先駆者ですね!
モンキーパンチ先生のデジタル漫画のスタイル
使用していたデジタル機器は?
2000年代になると、ペンや鉛筆の他にペンタブレットを使ったデジタルな方法で漫画を描き始められました。
アナログのペンで描いてスキャンすることもあれば、ソフトの「下書き」モードで直接描くこともあるそうです。
Macのコンピューターとワコムの液晶ペンタブレット(通称:液タブ)で、『Photoshop(フォトショップ)』というアドビシステムズ社の画像編集ソフトを使用されていました。
オリジナルのソフトを開発して漫画を描かれいたこともあるそうです。
液晶ペンタブレットですが、Wacom(ワコム)というメーカーの『Cintiq』というを使用されていたそうです。
モンキー・パンチ先生には、ペンタブレット黎明期からずっとワコムを支えていただきました。
ご冥福をお祈り申し上げます。 https://t.co/r5UKG4Vh2Y— 株式会社ワコム (@wacom_info_jp) 2019年4月17日
このワコムのツイートから分かるように、モンキーパンチ先生はワコムのペンタブレットの愛用者だということがよく分かりますね。
しかも、昔から。
モンキーパンチ先生にはアシスタントはいない!?
漫画家は原稿を描き上げるための補助をしてもらうアシスタントを雇うことがあります。
モンキーパンチ先生の場合は、自宅で漫画を描かれていますが周りにはアシスタントがいらっしゃいません。
じゃあ、アシスタントを雇っていないかというとそうではなくて、すごく現代的な方法を取り入れられていました。
僕は、頼むと言ってもネット経由で頼むくらいですよ。一作ごとの契約でやってもらってる。次の作品でも、うちに来てもらうんじゃなくて、自分が使っているのと同じソフトを渡して、自宅で描いてネットで送ってもらおうかなと思ってね。そうすれば、アシスタントは日本全国どこにいてもいいわけですから。
出典元:豪氏力研究所
「以前はここに何人もアシスタントがいたんだけど、もうここでやる必要はないからね。今もアシスタントはいるんだよ。日本各地、あと世界中に。中国にもドイツにもいるよ。インターネットでデータのやり取りができる時代なんだ。わざわざ同じ場所、同じ時間に合わせて作業する必要はないじゃないか」
出典元:BLOGOS
デジタルだからこそ、日本のあちこちに加え世界中の人と仕事ができるんですよね。
もしかすると、アシスタントの方もお家で仕事をされているかもしれません。
もしそうだとすると、勤務地へ行って仕事をするという働き方ではなく、在宅ワークという働き方を実践されていたことになります。
デジタルは漫画の表現方法の1つ
2009年11月13日公開のモンキーパンチ先生へのインタビュー記事で、モンキーパンチ先生のデジタルで作った絵についての考えが掲載されていました。
デジタルで制作した作品には、「ペンタッチの良さが出ていない」という批判もあったそうだが、氏は基本的に「その絵自体が面白ければいいじゃないか」という考えだったという
出典元:マイナビニュース
また、2003年3月の漫画家の永井豪先生とモンキーパンチ先生の対談で、モンキーパンチ先生は次のようにおっしゃっています。
マンガは筆で描く場合だってあるし、もちろんペンだってあるし、たまたまそれが「電子」だっただけだからね。
出典元:豪氏力研究所
つまりは、モンキーパンチ先生はデジタルは、漫画を描く際の表現方法の1つとしてとらえられています。
アナログにはアナログの味があるし、デジタルにはデジタルの味があって、最終的には「絵」のおもしろさが大切だということですね!
漫画制作をデジタルにするメリットは?
ゴミが出ない
漫画家の永井豪先生との対談で、デジタルで漫画を描くことについて、モンキーパンチ先生は次のようにおっしゃっています。
いろいろ便利ですけど、何といってもスタジオが汚くならない(笑)。消しゴムのかすもないし、トーンの切れ端も出ないから。
出典元:豪氏力研究所
デジタルだと拡大ができる
モンキーパンチ先生が液タブでデジタル作画なの驚かれてるのか。一条ゆかり先生が目を患われてデジタルになさったんだけど、老眼や眼の衰えには拡大できる液タブの方が作画しやすいし、実はデジタルは高齢者に向いていますよね
— きづきあきら (@kidukira) 2019年4月17日
年を重ねることによって老眼や眼の衰えが壁になることも、確かにありますよね。
絵の一部分を拡大して絵を描くことができるのは、液晶タブレットといったデジタル機器だからできることです。
修正もしやすく原稿が早く出せる
モンキーパンチ先生が液タブ使用者だと知らない人結構いたんだね、先生はアナログだと遅い(印刷機の横で原稿させられた話とかあるくらい遅い)けどデジタルだと修正も出来るし原稿が早く出せるからって凄い昔から液タブを使っておられた方なんだよ……好きなんだよ……ルパン………ルパン大好きなんだよ
— 島袋全優🐈退院 (@shimazenyu) 2019年4月17日
デジタルで描いた作品はデータで渡すこともできますしね。
無駄な時間を省けるというところもデジタルの強みです。
漫画制作をデジタルにするデメリットは?
永井豪先生との対談で、デジタルで漫画を描くことのデメリットをモンキーパンチ先生は次のようにおっしゃっています。
最近は出版社も、データで原稿を送っても大丈夫になってるから、コンピュータで描いたものをデータで渡してますね。だから、佐倉(※千葉県)に住んでてもあまり困らない(笑)。むしろ、編集者が仕事場に来ないので助かる(笑)。
そういう反面、コミュニケーションがなくなっちゃう可能性はあるよね。顔を見ないで仕事ができちゃうから。だけどまあ、電話で話せればそれでいいか、というときも多いし、側に張り付かれて、描いているところを見られなくて済むし(笑)。海外でも、パソコン持って行けば描けますしね。
出典元:豪氏力研究所
一長一短ってところでしょうか。
顔を合わせなくても済む、誰かといっしょに作業しなくてもいいというメリットもある反面、人と顔を合わせないというコミュニケーションの点ではデメリットみたいです。
また、編集者の方からすると、モンキーパンチ先生の仕事場へ直接足を運んだほうが安心なようです。
それに編集者は、仕事場に来て、僕が描いてるところを見ないと安心できないみたい(笑)。だから、僕のコンピュータの前にライブ中継のカメラを置いといたことがあるんですよ、「やってますよカメラ」(笑)。あとで考えたら、録画使ってアリバイ工作もできるなと(笑)。もうやってませんけどね。
(中略)
僕も、待たれるのは嫌なんだけどね……どうしてもやっちゃうんだよね(笑)。まだいいだろう、まだいいだろうと。催促の電話があっても「この声の様子だと、まだ大丈夫だな」とか。編集者の声が震えてくると「もうやばいかな」とか(笑)。そうそう、イニシャルのMってマンガ家は、原稿が遅いんだってさ。モンキー・パンチとか、××××さんとか(笑)。
出典元:豪氏力研究所
原稿を受け取るときでしょうか。
言われてみれば、メールなどで原稿のデータを受けとるよりも、直接紙ベースで受け取ったほうが安心ですよね。
締め切りがあるものなんて、特にそう感じます。
ですが、このあたりも時代の変化や信頼とかの話になりそうです。
モンキーパンチ先生は66歳で学生に!?
2003年からは、東京工科大学大学院メディア学研究科メディア学専攻(現・バイオ・情報メディア研究科メディアサイエンス専攻)でコンピューターのイラストレーションを専門に学ばれた。
2003年ですから、モンキーパンチ先生は当時66歳です。
学びたいことがあるから、30代以上の方は大学に通われるということはよくあることですよね!
人気の漫画家という肩書を手に入れた後も、絶えず最新の技術の学びや自分の成長を追い続けられる熱量は本当に尊敬します。
そして、2005年3月に修士課程(現・博士前期課程)を終えられ卒業されました。
モンキーパンチ先生は大学の教授にもなったいた
2005年(68歳のとき)には、大手前大学人文科学部メディア・芸術学科マンガ・アニメーションコースの教授に就任されました。
2012年(75歳のとき)には、同大学メディア・芸術学部マンガ制作専攻客員教授にも就任されています。
そして、2019年4月(81歳)には同大学の名誉教授にも就任されたところでした。(この4月に亡くなられました。)
まさに、漫画家としての功績×デジタルなどの最新の技術をもったモンキーパンチ先生だからこそだと思います。
モンキー・パンチ氏は05年に同大学の人文科学部メディア・芸術学科マンガ・アニメーションコースの教授に就任。もともとこのコースは美術学科だったが、モンキー・パンチ氏がマンガ・アニメーションコースを発案したことから「メディア・芸術学科」に改組したという。
「先生は本学教授ご就任と同時にスタッフとカリキュラム、さらには学生たちの卒業後の進路にまでご腐心いただきました」と熱心に取り組んでくれたといい、1年を通じ、大阪にあるキャンパスまで「毎週」足を運んでいたという。
出典元:デイリー
なんと、モンキーパンチ先生が大手前大学の「マンガ・アニメーションコース」を考案されたんですね。
モンキーパンチ先生は千葉県の佐倉市に住んでおられたようですので、毎週「千葉⇔大阪」の移動をされていたということになりますね。
その他にも
- 2010年(63歳のとき)には、東京工科大学メディア学部客員教授に就任
- 2017年(70歳のとき)には、専門学校札幌マンガ・アニメ学院顧問に就任
など、次の世代の教育にも熱心に取り組まれていました。
モンキーパンチ先生はデジタルマンガ協会会長にも
2003年の永井豪先生との対談で、モンキーパンチ先生は日本のデジタルマンガの将来についても考えられていました。
(モ:モンキーパンチ先生、豪:永井豪先生)
モ:ヨーロッパにしてもアメリカにしても、デジタルでマンガを発表しようという動きは、まだあんまりないですね。日本もぽつぽつは出てるんですけど、メジャーにはなってない。今、韓国あたりが一番力を入れているんですよ。マンガを進化させていくとデジタルマンガになるだろうと予測して、その研究に政府がお金を出してる。
豪:今から日本の紙媒体と勝負するのは難しいから、そっちの先駆者になろうと考えているんでしょうかね。
モ:それもあるでしょうね。でも、われわれも考えていたことだし、韓国に追い抜かれたら大変だよと、いろいろやってるんですけどね、まだ……。
豪:パソコン画面でマンガを見ようと言う“ニーズ”がまだないんでしょうね。少しずつは出てるんでしょうけど。
モ:これまでは、デジタルで取り込んで、それをそのまま見せようという考え方でしょ。それだとユーザーは見ないな、という気がするんですよ。本を見たほうが早いし、楽だし。だから、全く違う見せ方がないのか、と思うんですけど……。一緒に組んでくれませんか(笑)?
豪:経済的にペイするかどうか、というのが、一番の問題じゃないでしょうか。
モ:うーん。ただ、デジタルマンガが世に出れば、そこから人気が出てくる人もいるのではと。
豪:そうですね。紙の媒体では全然ダメだけど、こっちでは強いとかね。やっぱり、“最初からデジタルマンガを目指しているような人”が出てきてこそ、かな。若い人では、最初からそういう表現方法を選ぶ人が、出てくるかもしれない。
モ:そういうふうに早くならないかな、と思うんです。でも、マンガ家一人でやってても、どうにもならないんですよ。そして、それがゲーム機に載れば、チャンスが出てくると思うんです。なんとかそこへ持っていきたいと思ってるんですけどねえ……。今年あたり「デジタルマンガ協会」とかを作ろうと思うんですけど、なかなか人が集まらない。
出典元:豪氏力研究所
上記の対談は2003年当時の話ですが、紙ベースの漫画は日本が強いが、デジタルの分野では他の国に負けるという課題があったそうですね。
現在はどうでしょうか?
スマホのユーザーが増えて、デジタルで作品を見ることも増えてきましたし、デジタル機器で漫画を描くという人も増えてきました、
まさしく、永井豪先生とモンキーパンチ先生のおっしゃる通りに時代は進んでいるように私は感じます。
これも、2003年(66歳のとき)に漫画数名とモンキーパンチ先生が設立された『デジタルマンガ協会』の取り組みの成果の1つかもしれません。
モンキーパンチ先生は『デジタルマンガ協会』の会長を2003年~2012年まで務めていらっしゃいました。
モンキーパンチ先生のデジタル漫画まとめ
モンキーパンチ先生は
- 1975年のパソコン黎明期から購入されるほどの最新技術のものが好き
- 1988年からマックを使ったパソコンでの漫画制作を始められた
- フォトショップ×ワコムの液タブを使って描かれていた
- 世界各地のアシスタントとデータのやり取りで漫画を制作している
- ゴミが出ず、原稿の提出もラク、画面の拡大もできるというデジタルのメリットを活かしておられた
- コミュニケーションや顔が直接見えないというデメリットも感じられていた
- 66歳のときに東京工科大学大学院で学ばれていた
- 2005年から大手前大学などの大学で教授に就任されていた
- 2003年にはデジタルマンガ協会を設立された
常にデジタルでの漫画制作の先頭を走り続けられたモンキーパンチ先生。
きっと、これからの漫画の在り方がどのように進化していくか今も楽しみにされていると思います。